思いをつなぐ、夢をはこぶ 北海道新幹線の開業に関わる人々の「思い」に触れるインタビュー

美食の街で育った料理人が発信する「バル街」という価値 函館西部地区バル街実行委員会実行委員長 深谷 宏治(ふかや こうじ)さん

青函圏に新たな価値観を創りだす「バル街」の挑戦

バスク料理の向こう側に見えた「食文化」
スペインの「バル」とは、昼間はコーヒー、夜はタパスと呼ばれる小皿料理を肴に酒を楽しむ、カフェと居酒屋が一緒になったような空間。人々は思い思いの時間にそこへ集まり、コーヒー、食事、酒、そして会話を楽しみます。そんなバル文化が根付いている「バスク地方」は、スペインとフランスの国境にまたがり、スペイン側3州、フランス側3州に分かれた300万人強の人が暮らすエリア。固有の歴史と文化を持ち、特に食はスペインやフランスの他地域とは異なる「バスク料理」として独自の進化を遂げています。特にスペインバスク自治州キプスコアの県都サン・セバスティアンは、2014年版のミシュランガイドでスペインの三ツ星レストラン8軒のうち4軒が同市内かその周辺という美食で知られる街。
そこに深谷青年が降り立ったのは昭和50年のこと。日本ではバスク料理はおろか、スペイン料理さえもほとんど認知されていない時代でした。「現地で感じたのは、バスク人は自分たちの料理に誇りと自信を持ち、伝統を守りながらも革新を続けているということでした。バスク人は国家を形成することはありませんでしたが、独自の言語と料理で自分たちのアイデンティティを表現し、文化を高め続けている人々なんです」。深谷さんは、現代スペイン料理を代表するシェフ、ルイス・イリサール氏に師事し、バスク料理の基本と、バルでピンチョスをつまみながら会話と酒を愉しむ当地の食文化を肌で学びました。
ドリンクとピンチョス。限られた価格の中で各店の魅力が味わえます

ドリンクとピンチョス。限られた価格の中で各店の魅力が味わえます

深谷シェフ自ら生ハムやチーズをサーブする「振る舞いサービス」

深谷シェフ自ら生ハムやチーズをサーブする「振る舞いサービス」

街中で様々なイベントが行われ、参加者を楽しませてくれます

街中で様々なイベントが行われ、参加者を楽しませてくれます

一夜にして市民の心をつかんだバル街
帰国した深谷さんは、昭和57年に函館市で「プティレストラン バスク」を開業し、4年後の昭和61年には現在地に移転して「レストラン バスク」をオープンさせます。深谷さんが作る本格的なバスク料理は評判を呼び、日本ではおそらく初めてとなる本格的なスペイン料理専門書『スペイン料理[料理 料理場 料理人]深谷宏治 』を発表するなど、国内のスペイン料理第一人者として知られるようになります。
深谷さんは平成16年2月に「スペイン料理フォーラムin HAKODATE」を開催し、その前夜祭として、函館市の旧市街地で開催された「西部地区で一晩のバル街を」が第一回目のバル街となりました。「スペインのサン・セバスティアンでもバルは旧市街地にありました。街の歴史を感じられる旧市街地は観光客には魅力があり、街の住人にとっては落ち着ける場所です。街の魅力と函館が誇る食の魅力を多面的に発信することで、大きな相乗効果があるのではないかと考えました」第一回バル街は大盛況。参加25店舗に対して内外からの参加者400名以上がはしご酒を楽しみ、終了直後から再開催のリクエストが多数寄せられました。そこで深谷さんを中心にしたスペイン料理フォーラムの実行委員が再集結して「函館西部地区バル街実行委員会」を組織し、同年10月には、初回を大幅に上回る37店舗が参加して開催されました。
多彩な工夫で函館の空気に溶け込んだバル文化
その後バル街は年2回の定期開催となり(平成22年4月開催は東日本大震災を考慮し「バルまち応援会」に振り替え開催)参加店舗も順調に増加、平成26年9月の開催では当初の約3倍にあたる74店舗が参加し、参加人数の推計は当初の10倍以上となる4400人余りという一大イベントとなりました。
それに伴って開催時間を14時から24時まで(営業時間は店舗ごとに設定)に拡大。チケットと共に渡される「バル街マップ」には、位置や営業時間などの基本情報やライブなどのイベント開催の情報が掲載され、マップ片手に散策する参加者の姿はバル街の風物詩となっています。さらに、使い切れなかったチケットを開催後に使用できる「あとバル」、帰りの公共交通機関をお得に利用できる「バル街お帰り電車・バス」などの参加しやすい工夫に加えて、生ハムやフレッシュチーズなどの「振る舞いサービス」、着物での参加者にサービスがある「きものdeバル」をはじめ、各参加店や西部地区の路上で行われる、音楽、ダンス、講談などのライブも併せて開催。街と一体になって楽しむ「バル文化」が、新たな函館の魅力を演出しています。
バル街マップは、参加者、街、店、イベントをつなぐアイテム

バル街マップは、参加者、街、店、イベントをつなぐアイテム

バル街の夜の西部地区は全盛期を思わせる活気にあふれます

バル街の夜の西部地区は全盛期を思わせる活気にあふれます

新幹線でつながる地域の魅力をバル街で
函館西部地区バル街は、青森市や弘前市との連携を深めています。これまでは、バル街運営のノウハウ提供や、青函圏で開催されるバル街への相互出店などでしたが、平成26年は9月5日に「第22回函館西部地区バル街」を開催し、翌6日には青森市で「第4回あおもりバル街」を開催。連日開催にすることで、より多くの人に両地域へ訪れてもらおうと企画されました。
深谷さんは「青森と函館は津軽海峡という、しょっぱい川を挟んだ同じ地域だと思っています。料理人レベルでは今でも幅広く交流していますし、新幹線が開業することでお客様の交流も進むことを期待しています」と話します。現在、函館と青森の移動時間は速くても2時間強。新幹線開業でそれが大幅に短縮されます。「私たちの目標は『青函圏で今までなかった価値観を創る』です。ヒトとモノの流れがスピーディーになる。これは、新たな価値観につながる力を持っています。このチャンスを逃すことなく、様々なアイデアを出し合って新たな時代に備えたいと思います」
街と食という幅広い魅力を発信することで支持されたバル街は、新幹線の登場でさらなる発展を遂げようとしています。その先頭に立つ深谷さんの活動は今後も大いに期待されています。
市民が気軽に参加できるイベントもバル街の魅力のひとつです

市民が気軽に参加できるイベントもバル街の魅力のひとつです

写真提供:函館西部地区バル街実行委員会

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